瀋陽領事館事件の円満な解決に向けて

2002512日 堀川 哲朗

 

200258日に北朝鮮国籍の男女5名が瀋陽の日本領事館に駆け込み、中国の武装警察に連行された事件が発生したが、現在この処理をめぐって日中間で揉めつつある。この問題がいたずらに長期化・複雑化することは、両国関係にとって良くない。これを打開するために以下のような提言をしたい。

 

論点は、大きく次の2つであろう。

・中国の武装警察官が領事館に立ち入り、駆け込んだ者を捕捉した事の是非

・この5名を中国側が日本側に引き渡すべきかどうか

 

1.            中国側の主張も認めること。

 中国で外国の大使館、領事館の前を通りかかると、かならず、その門前で中国の武装警察が警備している。これは、中国として、在中国の外国公館の安全を確保するためである。その公館に用事があるものは、通常、まずその警官にパスポートなどを見せ、用件を伝えてから中に入ることになる。警官側も、それらを確認して、問題ないと思われれば、中に通す。今回の件では、おそらくこの5名は、入館を正当化するなんらのエビデンスを提示せずに中に強行進入したものと思われる。なぜなら、それなりの証拠(パスポートなり、ビザの申請書なり)を見せて、特に問題が無ければ、中に入ることを警官が妨げることは無いからである。しかも、中に入れるにはどの様な要件を満たすべきか、事前に領事館側と武装警察側でそれなりに取り決められているはずである。そうでなければ、日常の業務がスムーズに回らない。今回はそれを破って中に強行突入するものがいた。そうであれば、武装警察としてこれらのものを取り締まるのは当然の事である。これは、中国側からしてみれば、外国の公館を守るための措置である。

確かに公館内に警官が立ち入って良いかどうかは、微妙な問題である。ウィーン条約によれば、外国の公館内は、外国の領土に準じた扱いをする事になっている。日本側は、警官が公館内に立ち入ったことは、ウィーン条約違反であり、その様なことはすべきでは無かったので、中国側は謝り、また今後もその様な事をしないように確約せよといっている。これはこれで、ひとつの考え方であるが、ほんとにそれで良いのかという気もしないではない。

 というのは、今回の侵入者は、たまたま一般人が亡命したい一心で駆け込んだものの様だが、これがもし凶悪な犯罪者や工作員であったならどうだろう。敷地内は日本と同じだから、いったん中に入れば、あとは中で何をしようと、どう暴れようと、中国の警察は関知しないで済まされるのだろうか。

 それは極論と言うかもしれないが、事件が起こったとき、とっさの判断で侵入者が危険か危険でないか見分けるのは至難の業である。やはりいったん捕らえた上で、調べてみなければ、本当のことはわからない。一般人の姿をした特殊工作員はいくらでもいる。そうであれば、捕捉、連行したところまでは、多少やりすぎの感がないではないが、今回の警官の行動は、緊急避難措置として大目に見てもいいのではないだろうか。

 

2.            日本側の主張すべきポイント

であるから、連行したところまでは、其程うるさく言わないことである。使命感からやったという中国側の主張は、あながち単なる言い訳ではないと思う。むしろ、その使命感に感謝する位の事は言っていい。(但し、今回の事は特別であり、これを口実に、以後いたずらに無断で構内に立ち入る事が無い様にきちんとクギは刺しておく。)

 その上で、いったん5人全員が領事館の敷地に入っている以上、かれらの安全性が確認された時点で、引渡しを求めるべきである。中国側としても、ウィーン条約に照らして、それを拒否する理由はないであろう。

 

このようにすれば、中国側も日本側もお互いに面子が立ち、事態は良い方向に向かうはずである。